秘密の地図を描こう
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「そういえば」
不意にシンが口を開く。
「あの人に会ったぞ」
「あの人?」
誰だ、と言外に問いかけた。
「ほら。この前ここに来た開発局の人」
そんな人間……と言いかけて、レイは慌てて言葉を飲み込んだ。キラの存在をごまかすためにそう説明したことを思い出したのだ。
「どこで?」
本来の問いかけの代わりにこう口にする。
「アカデミーで、だよ。何か、迷子になってた」
教官達に用事があったみたいだけど、と彼は続けた。
おそらくニコルかミゲルに緊急の用事があったのだろう。それは推測できる。
しかし、どうしてメールではなかったのか。
後で確認をしないといけないな。そう心の中で呟く。
「現地任官なんてあったんだな」
レイがあれこれ考えているとは思ってもいないのだろう。シンがこう言ってくる。
「バルトフェルド隊だった、と聞いているな」
イザークやディアッカとはそこで出会ったらしい、と続けた。彼ら二人が一時期バルトフェルド隊にいたのは事実だ。だから、話に齟齬が出ることはないはず。
「そうなのか」
もっとも、そのあたりのことは疎いシンだから心配はしていなかった。
しかし、だ。
「なら……フリーダムのパイロットのことも知っているのかな」
不意にそう言ってくる。
「シン?」
「ジュール隊長とエルスマン副官は、あいつを《友人》だと言っていた。そして、バルトフェルド隊は三隻連合に加わっていたんだろう?」
ならば、どこかで会っていたのではないか。
彼はそう続ける。
「……それで?」
どうして、こういうことに関しては察しがいいのだろう。気づかなければよかったものを。そう思いながらレイは口を開く。
「そうだったとしても、あの人がお前の知りたいことを教えてくれると思っているのか?」
「レイ?」
「バルトフェルド隊は彼らと行動を共にしていた。それは、彼が信用に値すると考えていたからではないのか?」
そんな人間に『敵だから』と告げたらどうなると思う、と続ける。
「……だけど……」
「誰も彼もが、お前と同じ考えの持ち主だと思うなよ?」
個人的に、とレイは少しだけ手持ちのカードを見せることに決めた。
「お前がそう言うたびに、俺個人としてはお前との縁を切りたくなる」
こう告げた瞬間、シンは目を丸くする。
「俺の大切な人はフリーダムに命を救われたからな」
お前とは逆に、と続けた。
「確かに、ちょっとしたタイミングの差かもしれない。だが、俺にとってはアスラン・ザラやラクス・クライン、そして、カガリ・ユラ・アスハ以上の英雄だ」
そんな相手の悪口を延々と聞かされて気持ちいいはずがないだろう、と彼をにらみつける。
「だけど、お前、そんなこと……」
「言ったところで、どうなる? お前は聞く耳を持ってくれたのか?」
いつもの主張を繰り返すだけだっただろう、と言い返す。
「……知ってたら、言わなかった……」
それに、彼はこう反論してくる。
「どうだかな」
ため息混じりにレイは言葉を投げ返した。
「教官やジュール隊長方の言葉にも耳を貸さなかったのに、俺の言葉なんて聞き入れるはずがない」
違うのか? と続ける。
「あの人だって同じだ。聞いたところで反発されるだけだぞ」
締めくくりとしてこう言う。だが、シンの執念深さも十二分にわかっている。おそらく、近いうちにキラのことを調べ上げるだろう。
いったいどうすればいいのか
後でみんなに相談しておかなければいけないだろう。レイはそう心の中で呟いていた。